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Dis 1. 海外に出るメリットは? 臨床研究の場合

初めまして。猪原 拓(@taku_inohara)と申します。

初期研修修了後、市中病院で一般内科&循環器内科の後期研修を受けました。その後、大学院に入学し、循環器内科の臨床をしながら臨床研究のイロハを学び、学位を取得しました。関連病院での臨床を経たのち、2016年7月より米国ノースカロライナ州にあるDuke Clinical Research InsituteというDuke大学の関連臨床研究施設にてResearch Fellowとして働いています。

今回のお題「海外に出るメリットは?」ということで、自分が大学院時代から携わっている臨床研究、特にデータベースを用いた研究について書いてみたいと思います。

 

まず最初に、海外という話は置いておいて、「なぜ臨床研究か…?」という話から始めたいと思います。まず大前提として「臨床が好きだ!!」という自分がいます。後期研修中、少しsub-specialityの臨床にも慣れ、次のステップを考え始めましたが、どうしても循環器の臨床からは離れたくありませんでした。研究には興味があるが、臨床からは離れたくない…そんな自分が行き着いたのが臨床研究でした。臨床研究は日々の臨床と直結しています。昨今、医療の世界でも「ビッグデータ」の重要性が叫ばれるようにないます。データの持つ力は凄いです。そんなデータベースの研究の最先端を行くのがアメリカだと思っています。

 

1. 日本では扱うことのできないデータベース

米国におけるデータベースの充実ぶりは凄いです。循環器系ではAmerican College of Cardiology (ACC) が中心となって取りまとめているNational Cardiovascular Data Registry (NCDR)、そしてAmerican Heart Association (AHA) が中心となって取りまとめているGet With The Guideline (GWTG) Registriesがあります。NCDR・GWTGともに急性冠症候群、心房細動といった疾患ベースのデータベースと、心血管カテーテル治療、経カテーテル弁膜症治療といった手技ベースのデータベースがあり、NCDRには10種類、GWTGは5種類のデータベースがあります。

こうしたデータベースは、主に各病院の医療の質の評価、学術研究目的に用いられています。学会主導であるものの、全米の病院中からデータが収集される国家レジストリであり、そのサンプル数も想像を絶する数になります。例えば、以前に「抗凝固薬に関連した脳出血に関する研究(https://ja.ma/2FdN32E)」を行った際に、GWTG-Stroke Registryを用いたのですが、わずか3年分のデータを用いましたが、1662施設から141,311症例もの脳出血症例を解析することができました。これらのデータベースは、収集項目も非常に詳細で、さらにMedicareというアメリカの65歳以上の方々が加入する公的保険のデータベースと突合させることで、長期予後の追跡も可能となっています。もちろん簡単ではありませんが、こうしたデータベースにアクセスできる可能性があるということは非常に魅力的ですし、こうした経験は日本ではなかなかできないと思われます。

 

2. コーディネーター、統計家、プログラマーを含めた臨床研究チーム

日本での臨床研究は、研究費の管理、倫理申請、各施設との連絡、データ収集、データ解析、論文執筆と全てのステップを医師がこなす必要があることがしばしばですが、今の施設ではそれぞれの専門家が分担して行い、チームとしてプロジェクトを動かしています。そのため、医師は研究計画の立案、研究費の申請、統計解析計画への臨床的側面からの意見、論文執筆など、医師にしかできない仕事に集中できます。そのため、飛躍的に効率は上昇し、医師も多くのプロジェクトを兼任できるようになります。こうしたサポートがあるため、同僚の循環器のクリニカルフェロー達は、臨床業務を行いつつも多くの原著論文を書き上げています。

日本では不安を覚えながら自分で行っていた統計解析も、解析の専門家が担当するため、自分では対応できないような手の込んだ解析も可能です。また統計家へのコンサルトも敷居が低いため、これまで疑問に思っていた点を直接議論することもでき、とても勉強になります。こうした臨床研究チームを日本で作り上げることは現実的になかなか難しいとは思いますが、近年の臨床研究の複雑化、機械学習の進歩、デジタルヘルスの台頭、ビッグデータ化の流れなどを鑑みると、医師だけで臨床研究を行う体制は限界だと思われます。こうした臨床研究のトレンドをアメリカにいると肌で感じることができます。

 

3. ビッグネームと直接会える・仕事ができる

アメリカで仕事をしていると、これまで論文でしか見たことがなかった自分の中での憧れのビッグネームと知り合いになれたり、一緒に仕事ができたりします。例え共著者としてだけの関係であっても、そうした憧れの先生からコメントを頂けるのは非常に嬉しいですし、とても勉強になります。

また共著者というものの役割に関しても考え方が大きく変わりました。アメリカでは、共著者に論文を回覧した際に、多くの共著者が真剣に読んでくれ、詳細に建設的なコメントをくれます。時にあまりに多くのコメントに心が折れそうになることもありますが、こうしたフィードバックが論文の質を向上させていることは間違いがなさそうです。

 

4. 世界中に友達ができる

今の施設にはDuke大学のクリニカルフェローの他、カナダ、デンマーク、フランス、オーストラリアからリサーチフェローが来ています。過去にはケニア、韓国からのフェローもいました。皆、同年代の循環器内科医ですので、とても仲良くやっています。こうした繋がりは是非、大切にしたいです。

 

5. 人としての成長、家族との絆

留学中の色々な逆境を経て、人として少しは成長したように思います。そして日本にいた頃よりも視野も広くなりました。これまでなんてちっぽけなところにいたんだろう思うようになりました。そして、最後は家族のことですが、日本では考えられなかったほど、家族との時間が取れ、絆も強くなったと思います。これが一番良かったかもしれません。もちろんデメリットも多いです(主にお金と英語からのストレス…)。ただ、自分としてはそれを遥かに上回るだけのものが海外では得られると信じて日々過ごしています。