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Dis 2. 海外での困難とその対策 ポスドク×循環器×欧州の場合

こんにちは、ピアニシモです。今回は、海外での困難について書きます。他の皆さんが述べられている通り数え上げればキリがないのですが、ここでは大枠で3点、お話しようと思います。

 

1. お金のこと

私のような研究を目的とした海外留学の場合、お金の問題は大変重大だと思っています。医師としてのそれなりに安定した収入を捨てて異国の地で新たに研究生活を始めることは、経済的観点から見れば甚だ異常であり、お金に対する価値観は海外留学の選択に一番大きく影響するものの一つです。

私の場合は幸いにも、日本・ドイツ双方からの2年間の助成金のおかげで、助成金の規定によって給与はもらっていませんが、家族4人でざっくりトントンの生活を送ることができています。これには、家賃を含めた生活費が他の欧米都市よりも比較的安いことも関係しています(家賃は現在855ユーロ/80㎡/月)。また、助成を受けていない同僚は皆(たとえPhD studentであっても)給与が発生する雇用関係にあり、いざとなれば私も同様の交渉が可能です。せっかくなので現地の生活を楽しめるゆとりは欲しいですし、例えば仕事で壁にぶち当たってへこんだ時などに「それでも家族の生活を守ることはできている」という砦があることは、精神的に大きいです。留学費用に関してはいくら準備してもし過ぎることはありません。ただ一方で、助成金等は申請する段階で獲得できる保証が一切ない、というのもまた辛い事実です。さらには、留学先によっては「助成金が取れたら来ても良いよ」というケースもあるようで、なかなか難しい問題です。応募できる助成金についてはTaku Inohara先生がきっちりとまとめてくれていますので、参照してみてください。下記UMINのページも参考になるかと思います。私はこれを見て、応募資格のあるものには全て応募しました。

研究費補助機関データベース管理システム

 

2. 家族のこと

留学をする、継続するにあたって、家族(特に配偶者)がどのような考えを持っているか、というのはお金のことと同様、非常に大きな影響力を持つ要素です。家族が一緒に渡航する場合は、人数が増えるほど現地で体験する困難も増えます。もちろんしっかり準備することも大切ですが、それでも困難はやってくるので、キャパの広さやある程度楽観的なマインドも重要だと思います。

私の妻は、留学前は渡独を楽しみにしていましたが、それでもいざ来てみると最初の1〜2ヶ月間は元気のない状態が続きました。職場や幼稚園というコミュニティがある私や子供たちと違って、人間関係が家庭内に限定されてしまう孤独感が大きいように思いました。ドイツでは、移民政策の一環で、滞在許可取得者は1時間約2ユーロという破格の値段で公的なドイツ語学校(VHS; Volkshochschule)に1年間通うことができます(滞在条件によっては受講が義務付けられています)。そこで妻も渡航3ヶ月目から通学を開始したところ、クラスで様々な国の友人ができ、随分と忙しくなりましたが今ではこちらでの生活を自分なりに楽しんでいるようです。ちなみに、この語学校の生徒の出身国は中東やアフリカが多いという点で、私のラボにいる外国人のそれと随分異なっています。妻が語ってくれる友人の話はとても興味深く、私自身の視野も広くしてくれています。

準備の時点で、一緒に渡航する配偶者のコミュニティ作りのことまで気を回す余裕はなかなかないと思いますが、少なくともドイツの場合はこのVHSは有用だと思います。先述の通り、家族で渡航する場合は困難も増えますが、それを共に乗り越えていくこと、さらには現地での楽しみを共有することは、何にも代え難い価値があると実感しています。

 

3. 仕事で受ける評価

こちらのラボに来て最初の3ヶ月程度は本当にわからないことばかりで、「一体何をしに来たんだろう」と心が折れそうなこともしばしばでした。それでもコツコツと真面目に取り組み続けることで、10ヶ月程度経った今では少しずつ皆に信頼してもらえるようになってきた実感があります。以下に少し詳しく書いてみます。

 

私のラボでは、ボスに直接進捗状況をプレゼンして互いに議論し合う個別ミーティングが、2週に1時間程度、部下一人一人に対して設けられています。これは言い換えれば、各々が評価を受ける場にもなっています。自分の印象としては、「一つ一つの事象からいかに問題点を抽出して解決策を見いだせるか」、そして「実際にどれだけ真剣に取り組んでいるか」、という2点が主な評価項目であると感じています。一方、知識や技術に関してはもちろん多く持っていることに越したことはありませんが、広大なサイエンスの中で皆得手不得手があるのは自然であり、今できないことは、勉強したりできる人に相談したりしながら進めていけば良い、という雰囲気があります。研究所内は英語が公用語になっていますが、そもそもは非英語圏であることや外国人の在籍者が多いこともあってか、自分のような拙い英語でも、それ自体が大きな減点対象になっているとは感じません。とは言え、もちろんそれに甘んじることはできず、私としては英語力の向上は永遠の課題だと認識しています。

 

また当然ですが、ボスだけではなく同僚との関係性も仕事を潤滑に進める上で非常に重要です。誰も自分のことを知らないゼロ地点から周囲の信頼を得ていくためには、日々のコミュニケーションを大切にすること遵守すべきルールを把握して真面目にきちんと仕事をすることなど、地道な努力に勝る方法はありません。これは簡単そうに思えますが、決して世界中の全員にとってそうではありません。特に、真面目にきちんと、というのは概ね日本人が得意とすることのように思っています。

また、さらに積極的にアピールするために、自分の強みを活かす、というのも信頼を得るためには非常に有効です。私のラボは心臓・血管を研究対象としていますが、在籍する研究者は、non MDや、MDでも卒後すぐから基礎研究に従事している人が多く、循環器専門のMDは実は私だけです。基礎研究の知識や経験は彼らに敵いませんが、臨床医の視点でこちらからサジェスチョンできることは実際非常に多く存在します。また、半年ほどコツコツ取り組んでいると、このビッグラボの中でも私が一番精通していることがいくつかできてきます。そうするとそれに興味を示す同僚が自然と寄ってきて、協力や助言を求められたりすることもあります。他人にはない自分の強みを知ること、なくてもなんとか産み出すこと、それを活かしていくこと、というのはとても大切だと思います。

 

それでは、また。