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Dis. 3 海外留学者の最終目標って何? 雑草外科医の場合

こんにちは!

雑草外科医です。前回更新からいろいろと忙しく、更新が遅れて申し訳ありません。

Discussion 3に移りましょう!

今回はズバリ『海外留学者の最終目標って何?』です。

なぜ住み慣れた日本の環境を変えてまで海外で臨床医または研究医をするのか?

帰国された先生方は、海外生活を活かして日本でどういった目標を立てているのか。

そこには明確なVisionがあるはず!というわけで先生方に聞いてみましょう!

 

ではまず管理人である私から発表します!

今日は語りますのでお付き合いください!

1. 挫折

目標って聞いているのになんで挫折なのか?と疑問の声が聞こえますが、私が海外で勉強しようと思った理由は『挫折』です。医学部を卒業後、日本の肝移植の有名病院で研修して入局し、関連病院の中で最も大きい肝胆膵外科センターで育てて頂きましたが、結論から言うと救えない患者が多すぎる

 

外科医けいゆう先生@keiyou30もブログで詳説していますが、悪性疾患(癌)はStageが決まっていて、進行して腫瘍が増大または転移するほどStageは上がる。(0: 早期癌~4: 多臓器浸潤癌) 腫瘍外科手術は皆さんのイメージ通り腫瘍を物理的に摘出して根治を目指す治療ですが、その適応はかなり狭い。臓器にもよりますが体内で重要な働きをしている臓器は完全摘出ができないため、“切れる範囲で手術”が大前提。早期に運よく発見されて手術で根治する方もいれば、進行した状態で見つかり外科手術ではメリットを得られない方も多い。固形臓器においては化学療法や放射線療法のみで根治を望める癌はかなり限られているのが現状です。(実際は化学療法、分子標的療法で縮小させ、外科手術にコンバートできる方もいます。もちろん癌種に寄りますのであくまで一般論です。また同じ疾患でも患者さんごとに検討する必要があります。)

 

特に外科医として残念で仕方ないのは、この血管さえ腫瘍に侵されていなければ手術で根治を目指せたのに、全身に転移がなくもしこの臓器ごと交換できれば治せるのにという症例です。血管を自在に再建できる能力と他人の臓器を移植できる能力(将来的には異種移植、再生臓器移植)があれば治せるのではないかというのが次に考えたStepです。

 

ですが、ここで大問題:移植ドナー不足です。

 

日本ではご存知の通り脳死移植は法改正後も微増状態で、本来期待されていた欧米のようなドナー増加は得られていません。未だにやむなく生体移植(健康な方を傷つけて臓器を分けてもらう)に頼っています。では生体移植で足りているのかという点ですが、全く足りていません。私の専門の肝臓移植においては下図に示す通り、肝不全の患者さんすべてに移植しようとすると今の約5倍の数の手術が必要です。

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肝移植の適応患者数

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各国の肝移植数

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日本は肝移植数の後進国

『ダメだ、日本の現状では救えない。諦めて他分野をやろう、または専門を変えよう』と考えるのが医師として利口なのかもしれませんが、私にはこの点だけは譲れない理由があります。そもそも肝臓外科医になろうと決めたのは小学5年生の時で、父が肝胆癌の医療事故で術後に急死した経緯からです。進行癌の手術だったので...と家族は言いますが、自分は納得せず、外科になって自分で患者さんを治したいと思ったのがきっかけです。何より残された家族がどういう思いをするか知っているので、簡単には引き下がれません。でもどうしたらよいかは分からないまま。

 

ちょうどその頃、研修医の指導医(北米で臨床医をしている)から夏休みに遊びに来ないかと連絡があります。ついでにうちの大学病院の手術も見学したら?と言われ軽い気持ちで行きましたが、内容は壮絶でした。特に印象的だったのは肝門部胆管癌(肝臓の血管の束の近くで位置が悪い癌)で肝左3区域切除(肝臓を7割近くとるぎりぎりの手術)の症例。術前診断よりも進行しており右肝動脈(残す肝臓を栄養する血管)と門脈(栄養を運ぶ血管)に腫瘍が広がっていた。正直インオペ(手術中止)と思った。執刀医の先生は、In situに切り替えようと宣言。その瞬間から麻酔科医は移植専門の麻酔科に代わり、手術部看護師も交代。肝臓を移植のテクニックで体内にありながらも冷却保存し、血流を完全遮断してから腫瘍を切除、血管はすべて再建して血流再開。北米ではこの大手術をその場で判断して応用できるチームがあるのかと驚愕した。結局、旅行中はほぼずっと病院にいた。

 

最終日、教授と准教授(今のボス)と個別にInterviewしようと言われ訪室。北米で移植および移植応用手術を学ばないかと。ただ日本ではドナーが圧倒的に足りず、救えない事情を説明。今でも鮮明に覚えているが、准教授から『革命的に移植可能臓器を増やす方法がある。俺の下でEx Vivo Machine Perfusionを学ばないか?Researcherとして実績を積み、その後臨床に来い!』と。

 

その一言で人生は180度変わり、大学院入学と同時にResearch fellowのcompetitionに勝ち、渡航、現在に至ります。

 

2. Ex Vivo Machine Perfusion (MP)

MPって何?という質問の前に、現状の移植について説明します。

 

まず移植では臓器を摘出後、特殊な臓器保存液につけて冷保存します。これが最もオーソドックスで確立された方法です。しかしながら、この方法には限界があります。冷保存と血流再開時に臓器に損傷が起きます。ですのでこの方法では健康な人の臓器しか安全に移植できません。

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通常の移植(単純冷保存)

ここで登場するのがMPです。MPは冷保存後に臓器を人工血流で灌流し、体内にあるかのごとく栄養や酸素を臓器に送りながら移植するまでをつなぐ役を担います。これによって先のダメージは大きく軽減されます。また移植臓器の機能測定も同時にでき、灌流中に移植臓器を“治療して”機能を改善させることもできます。何がメリットかというと、今まで単純冷保存では安全に移植できなかった境界臓器(ECD)の移植が安全にできるようになります。

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MPとは?

 

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MPを使った移植の流れ



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拡大適応ドナーとは?

これは世界に革命をもたらした技術で、科学の最高峰雑誌であるNatureに英国の臨床試験の結果が掲載されたことは記憶に新しいです。(2018年)

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NatureのMP記事

この技術があったら何が変わるの?

いままで使用不可能とされていたECDからの臓器を安全に移植できるようになります。これは今まで圧倒的に不足していたドナー不足を劇的に変える可能性があります。また生体肝移植における問題点である過小グラフト(肝臓のサイズが合わずに肝不全になる)やグラフトの分割においても有用である可能性があります。将来は再生医療との組み合わせで臓器再構築に使用されると期待されています。

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MPの可能性

おおー!日本でやっているの?

いいえ、日本どころかアジアで臨床応用されている国はありません!

移植医療の導入が欧米に10年遅れた島国は、またしても最新技術の取入れに大幅に遅れています。

 

3. 雑草外科医の最終目標と現状打開の作戦

私の目標とはズバリ、『移植手術も血管再建も伴う超拡大手術を自在に行うことができるHybrid surgeonになること』です。ただ、これはあくまでいち外科医としての目標。上記説明した通り、これだけでは救える患者はごく少数のみです。

 

最終目標はMPを日本に持ち帰り、普及させて一人でも多くの方を救うこと』です。

 

では、具体的にどうしたらいいのか...というのは毎日悩んでいました。自分がいくら発言しても、下っ端が偉そうにするなとか、学会や国にお願いするにしても、あなた誰ですか?と言われるでしょう。

 

このままでは海外に確立された技術があるのに、井の中の蛙な日本だけまた遅れてしまう。今の同僚やボスには日本に帰らずにこのまま北米で活躍すればよいと言われたこともままあります。でも自分は日本人のために医療したいのであって、見過ごすわけにはいかない

 

これを打開するために2つの作戦を立てました。

 

1つ目は、自分がMPの専門家として名を上げることです。具体的には今在籍している施設(北米肝移植No.1かつ世界初の臓器灌流センター)で移植外科医として腕を上げ、Academicにバンバン情報発信をしていくこと。これには在籍している日本の医局教授も全面協力してくれ、現在Competitionの真っただ中です。

 

2つ目は、世論を動かすこと。これは私にはできません。そこで外務大臣であり、肝移植のドナーを経験された河野大臣にこの技術を紹介して頂きたいとお願いすることにしました。国民の信頼も厚いインフルエンサーかつ肝移植ドナー経験者の言葉は世間の常識を変えることができると思っています。これについては皆さまのご協力もあり、河野大臣から直接ご連絡を頂いたので、今後進めて行きたいと考えています。

 

 

長い文章をお読み頂きありがとうございました!

今後も日本を変える行動をしていきたいと思いますので、一人でも多くの方にご理解、ご協力頂けますと幸いです。