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それは本当に今戦わなくてはならない敵なのか?

こんにちは、雑草外科医です!

若手医師や医学生からいろいろと悩みの相談を受けますが、最近本質以外に気を取られている質問やDMが増えており、勿体無いと思うことが多いです。

例えば、指導体制が気に入らない、本当に自分が選択した科でよいのでしょうかなど多岐に渡りますが、特に気になる質問が来たので、ブログで返事をします。

 

相談者は、匿名の心臓血管外科医7年目の先生です。

内容は要約すると『ADLの自立していない超高齢者に高侵襲手術や高額医療を提供して意味があるのか。それに加えて残業代が充分に出ず、自分の家族との時間を犠牲にしている現状にどう整理を付けたらよいのか。』というものです。

心臓血管外科医ではないので、細かい状況については差異があるかもしれませんが、お答えしたいと思います。

 

今回のテーマは『悩みの種は当に今戦わなくてはならない敵なのか?』です!

自分の目標に対する真の敵を見失っては絶対に勝てません。考察してみます。

 

1.目標設定ができていないことは致命傷

きっぱり言うと、この先生のモチベーションの核は本論と関係ない点によって揺らいでいます。自分がどうしたいのか、どう成長していくストーリーを描いているのか、もう一度確認した方が良いと思います。

 

まず詳述されている不満は理解できますし、臨床医として疑問に思うのは当然と思います。でもそれが先生の心臓血管外科医としての働き方にマイナスに影響してはならないと私は思います。先生は7年目であり、後期研修を終えていよいよ自分のSubspecialityと自分だけの業の習得を意識し始める時期です。高齢者専門のTAVIや心臓手術を専門にしていくわけでなければまずこの高齢者問題は第一に考えない方が良いと思います。なぜなら先生が高齢者の高侵襲手術や高額手術について悩んでも、国の保険制度や病院の方針、ないし患者や家族の希望はおそらく変えられません。変えたければ、先生が心臓血管外科の責任者になって発言するか、医官になって制度改革をするしかありませんし、そうなればおのずとやるべきことは決まってきます。


話を戻すと、この先生は心臓手術に魅せられて入局したと書いてあり、手術を極めたいという点が最終目標と推察されます。私が先生の立場なら、日常の業務はすべて涼しい顔をして完璧にやり切り、もっとエネルギーを使うべき部分(どうやって論理的手術をするか等)に集中すると思います。簡単に言えば、どうやって執刀を勝ち取るかです。若手が年功序列を崩して勝つには、今の外科メンバーの誰から見ても非の打ちどころのない功績で勝つ必要があります。病棟、手術、学会発表、論文など。どれくらい努力しているか振り返ってみましょう。また重要な点は、それらを最大効率で行うには、いちいち医局の方針にケチをつけて抵抗することは得策ではありません。幹部が決めた方針に従い如何にスムーズに管理し、腹心の部下になるかが最初の鍵です。雑草外科医のTwitterでも述べましたが『下積みは最大効率かつ最高クオリティで与えられた課題をクリアしていく』ことが重要であり、バッティングセンターのようにぽんぽん打ち返す必要があります。そうして培った信頼と実力を元に先生が執刀を勝ち取り、自由に発言できる信頼がある上で、適応の改革についてエビデンスも踏まえて提案するのが理想と思います。功績も努力も十分でない若手の言うことがカンファレンスで素直に認められることは難しいのです。変えたければ実力と信頼をつけないといけません。

 

2.自己研鑽の仕方

正直にお答えすると、修業時代はある程度自己を犠牲にせざるを得ないと思います。

昨今の労働時間適正化と逆行しますが、どうしても外科系はいわゆるブラックな修業が必要になります。我々外科医が若手時代に9時5時で変えることはほぼ不可能です。しかもそれは高みを目指せば目指すほど厳しくなります。他人より少しでもアピールして執刀機会を狙う競争からすれば、自分のプライベート(遊びの時間や睡眠時間、家族との時間)を削って戦うという姿勢にならざるを得ません。

ただ、これは労働時間ではなく、つぎ込んだエネルギーと結果が全てということは忘れないで欲しいと思います。だらだら病院にいることが良いのではなく、きちっと集中して結果を報告できるくらいまでまとめて、効率勝負することが求められます。

それが嫌だという場合は、まず自分が本当に術者として成長できる見込みがあるのか期間を設けて全力で努力してみてはどうでしょうか。例えば2年間かけてAVR執刀を勝ち取るという目標を上司に(うまく)宣言し、努力してかなわないなら辞めてしまうなど。それには徹底的に努力する必要があります。自分がAVRについて世界一詳しいのではないかと錯覚するほど論文や手術書を読み、自施設成績もまとめて発表し、積極的にDiscussionもしなければなりません。特に、演題を与えてもらう立場は後期研修医までです。自立していることを示すためにも、自分で臨床試験も計画してどんどんリードしていきましょう。大事なことは担当患者も、選り好みせずにどんな患者でも快く担当し(むしろ獲りに行く)、積極的に何でも任せて欲しいというキャラになる必要があります。最高の状態は、どんなに重症でもあいつがいればICUも病棟も問題ないと思わせることです。それで手術も積極的に参加してくるなら、上級医としては執刀を任せるしかないでしょう。年功序列は破壊してなんぼです。だって先生というスーパーDrは今までその病院にいなかったのですから。伝統は壊してからが勝負です。とことん突き詰めて自分の可能性を探るべきと思います。

これについては、例えば北米の心臓血管外科が楽と思うのであれば大きな間違いです。最高峰のモチベーションと能力を兼ね備え、日本よりはるかに厳しいSelectionで選抜されたDrでされ、高率にドロップアウトするレジデント時代、すべての執刀および病棟管理を負うフェローを経ないといけません。病院でずっと寝泊まりは普通です。その後、Attendingに慣れた者のみが高い地位と高収入(と休み?)を得ますが、それでもオンコールや全責任を負うなど重圧はあります。

 

3.医療資源の問題

これはかなり難しいです。私は答えを持っていません。当然、高齢者や合併症バリバリの方に手術をするのは誰もが避けたいです。しかし、かといって先生自身の感触から勝手に手術をしないと選択することは許されません。(我々は明らかなデメリットが患者に生じると予想される状況を除き、手術患者の選り好みはしてはなりません)また、病院、科の方針を論破できないのであれば従うしかありません。

今回はたまたまこの問題でしたが、いずれの問題にしても、今7年目の昇竜の如く成長する段階の外科医が悩み、先に進めなくなる問題としては不適と思います。自分の将来を切り開くために最も重要な課題は何か、もっと探してみて下さい!

 

結語
私の答えは『敵を見誤ってはいけない!』です。目標を叶えるうえで主要な敵でないなら『ははーん、なるほど。つらい状況だけどスマートに管理してやるぜ!と割り切ることです。なぜつらいかとか、この状況おかしいとか、この世界でやると決めたのなら考えるのは将来目標とそのための研鑽において無駄でしかありません。NegativeなイベントをPositiveに変えられるかどうかは先生次第と思いますよ!

 

ここからは独り言です。
こういった質問の背景には、自分の理想と現実は違ったという方が多いです。それはつまりはかっこよく高難度手術をする外科医を目指していたのに、現実はあまりに雑用という名の術後管理ばかりで全く成長が感じられないというケースです。正直言うと、「当たり前でしょ、そんなにこの世の中楽じゃない」と言いたいところですが、実はこれは最初に誰しもが感じます。私が思うに、この極限の状況で試されているのは如何に強いモチベーションを保っていられるかです。今日が雨でも明日も大雨でも、来週までずっと雨ということはありません。どれだけ眠くても朝いちばんに来て患者を診て、術後誰よりも機敏に対応する。これを如何に実践できるかが周囲からの判定の材料になります。ここで負けるようなモチベーションではダメです。食らいついて、自分の理想を如何に守るか、それを実現するかに集中しましょう。この状況に耐えられない又は本質を見失う状況から抜け出せないならキッパリやめて別のキャリアを探した方がよいと思います。
私は今海外でブタの手術ばかりしていて、責任者の立場になるとたとえブタ実験であってもすごいプレッシャーに襲われます。はっきり言って、術後管理部隊の方が100倍気が楽です。術者ステージに行っても耐えられるよう、今の自分を鍛えておく必要があると思っています

挑んでいる人は輝いて見えるかもしれませんが、当人は誰しもがつらいです。どん底で、泣き出したい日もあってもいいと思います。でもその極限の状況で努力した内容はきっと評価されると思っています。